(仮題)中岡慎太郎の幕末史
中岡慎太郎を調べ始めて20年は経つだろうか。著者もよくあるパターンで坂本龍馬から幕末史に入り、全く違った対照的な行動をした慎太郎だが、実は龍馬にも負けないぐらいの功績を遺したのではないのかと興味を持ち調べ始めたのである。
本書では慎太郎自身の生い立ちは、先人の残されてきた既刊本の検証に留まって、新たな発見と言うものは感じられないかもしれないし「中岡慎太郎に興味がある」と言う人は結構いたりするものだが、その方々に答えられるには、まだまだ研究が必要だとも痛感したものである。
ただ慎太郎の活躍はとても幅広いものであり、藩で言えば土佐・薩摩・長州の幕末で燦然と輝くビックネームたちとの交流は凄みを感じ、芸州・筑前・水戸と幕末史では埋もれてしまった藩の動きを掘り出すのも興味深いもので、その各地で関わった人たちの事績や思想を調べることで「中岡慎太郎は何をした人」と語れることに少しでも近づけたらと思っている。
対峙した最後の将軍・慶喜の行動や幕府側の紀州・小倉の内情も知り、時系列で幕末の攘夷と開国論の対立にもこだわって書いたことで、諸外国とのグローバルな世界に踏み入れた混迷の時代に、必死に国家の未来を考え、幕府側・討幕側問わずに命を懸けて戦い、生きていった当時の人物たちの生き様も知っていただければ幸いである。
また著者が憂慮しているのは「薩長史観の否定」「龍馬暗殺の黒幕」と言った史料に基づいた調べをろくにせず、自説に有利なような解釈を以て出版されるトンデモ本とも言うべき著書がなぜか持て囃される現代の風潮に警鐘を鳴らしたいとの思いも、この著書の出版の大きなきっかけの一つである。
本当にあった歴史記述を調べ、検証することで少しでも「真実」に近づき、そのことを多くの人に伝えたい。それが一番の著者の願いである。