義民が駆ける
江戸時代後期、慢性的な財政難に苦しみ、藩政改革を試みるも実効が上がらず
その打開策に悩んだ川越藩藩主・松平斉典は、実子がいるにもかかわらず
1787年(天明七)~1837年(天保八)50年の長きにわたって徳川十一代将軍となり
隠居後も権勢を振るった徳川家斉の21男・斉省を養子に迎えて将軍家と繋がりを作り
幕府首脳に多額の賄賂をばら撒いたうえ
良質な米の産地で、北前船の寄港地(酒田)でもあり富裕な藩と見られていた
(十四万石。実質は二十万石とも言われた)
庄内藩への国替えを画策した…
一方、天保五年(1834)老中となった水野忠邦は、家斉在任50年の間の放漫財政や
大塩平八郎の乱や外国船の度重なる来航など、前途多難な政権運営にあたって
抜本的な財政改革による緊縮財政を目指すが、なおも幕府の実権は家斉側近に握られ
思うように改革は進まなかった。
そんな中での松平斉典の申し出を水野は呑んだ。
ただし、家斉側近に対抗すべく親藩・名家としての川越松平家、さらに本家・越前松平家の
助力・多数派工作を望んでのこともあり、互いの利害が絡んでの画策であった。
そして1840年(天保十一)11月
幕府は次の三藩に「移封命令」を出した。
あからさまな替地では、露骨に捉えられてしまうので、間に一藩を挟んだ
いわゆる「三方領地替命令」と言われるものである・・・
川越・松平斉典→庄内(14万石)
庄内・酒井忠器→長岡(7万石)
長岡・牧野忠雅→川越(15万石)
石高では川越が一番多いが、内実は豊穣な土地で知られた庄内に対し痩せ地が多く
そのため年貢の取立ても、きつくできず2割5分に留まり(庄内の年貢は5割)
庄内は約半分の石地への移封である。
庄内に最も懲罰的であり、川越にはまたとない条件である。
庄内には「酒田港取り締まり不行届き」や「本間家の豪勢な生活ぶり」も理由として迫ったと言う。
江戸時代にこの手の幕命は、名門譜代の酒井家と言えども絶対だった。
水野忠邦は命令さえ出せれば、この目論みは本来、実現と言ってもおかしくなかったのだ。
しかし、庄内は強硬・老獪な手段で意外な抵抗運動を行ったのだ・・・
庄内藩は藩主酒井氏で、藩を経済面で支え、領民にも農政面・金融面で多大な影響力も持った本間家(今回の件でも黒幕と見られる)を通じて善政を行い
藩主~領民の結束が固かったと言われる。
(飢饉時は救米の支給はもちろん、貸付米金の切捨ても断行。他藩の様に餓死者を出さなかった
事実があった。当然、領民の逃散等はなく藩経営は安定していた)
この話は「三方領地替」に対し、農民自らが幕閣、江戸の有力大名や隣藩等に駕籠訴(直訴)を行い
本来はお咎めのある所を逆に賞賛・激励されて、前代未聞のついに白紙撤回となった出来事である。
この藩の結束の固さは幕末の戊辰戦争の折りにも、経済力をバックに会津藩と並び強硬に抵抗したが
現在でも、自治体の破産が現実を帯びてきた時代に、封建時代に領民が自ら望む藩主(首長)を選んだ行動に、大変興味深い内容となっている。
(藤沢周平著・中公文庫)
また、藤沢氏は山形県鶴岡市の出身で、一連の松竹・山田洋次監督の時代劇
映画の原作者でも有名(「武士の一分」が公開中)
「白虎隊」はテレ朝系で、実質・東映製作の作品なんで、しっかりしたもの
になってると期待しております。主演がジャニーズ系なんでちょっと不安
ではありますが(演技のうまいのと大根かの、当たりはずれが結構大きい)
あと、NHKで1月2日に「堀部安兵衛」があるそうでこちらも楽しみですね!